第326話 ルポ熟年離婚を読んで、語って
【326話】「ディストピアちゃんねる」ルポ読書会/課題図書『ルポ 熟年離婚』/熟年離婚の定義/環境要因と個人要因6つずつ/環境要因1:お金環境要因2:時間/環境要因3:健康の変化/環境要因4:家族変化/環境要因5:住まい/環境要因6:つながり(友人関係や地域)/予測可能性/持続性/コントロール可能性/増減の方向/個人要因はコミュニケーション/夫婦の合意形成が鍵/個人要因1:価値観/個人要因2:表現方法/個人要因3:読解力(理解力)/個人要因4:寛容さ/個人要因5:柔軟性//個人要因6:自己認識の精度/環境変化への共同対応/パートナーシップは難しい/コミュニケーションはまあまあ無理ゲー/
毎月第1土曜日に配信している「ディストピアちゃんねる」では、友人のけんぞーさん、ラッカさんと3人でルポルタージュを課題図書として語り合っている。今回取り上げたのは『ルポ熟年離婚』である。10年以上連れ添った夫婦の離婚を熟年離婚と呼ぶため、必ずしも高齢者だけの問題ではない。40代で20年以上連れ添っていれば熟年離婚に該当するのだ。
増加する熟年離婚
離婚件数全体は減少傾向にあるが、熟年離婚は横ばいで推移している。その結果、2023年には全離婚に占める熟年離婚の割合が高くなり、4組に1組が熟年離婚という状況になっている。この本は、そうした熟年離婚の当事者たちの事例を40〜50ケースほど紹介し、専門家やカウンセラー、作家の金原ひとみさんなどのインタビューを交えながら構成されている。
ただし、本の章立てには課題を感じた。第1章は役職定年による収入減、第2章は定年後の生活、第3章は不倫やハラスメントと、離婚原因で整理されているかと思えば、第4章で「2人の形」、第5章で「卒婚という選択」といった提案が入り、第6章は「仁義なき熟年離婚」として雑多な事例が並ぶ。もう少し体系的に整理できるのではないかと考え、自分なりに熟年離婚、ひいてはパートナーシップの構造を分析してみた。
夫婦を取り巻く6つの環境要因
まず注目すべきは、夫婦関係が環境の影響を大きく受けるという点である。私は環境要因を6つに分類した。
第一にお金である。収入の減少や支出の増加といった経済状況の変化は、生活の仕方そのものを変えざるを得ない。役職定年で給料が30%下がれば、タワーマンションから引っ越すかどうかという現実的な選択を迫られる。
第二に時間である。転職で終電まで働くようになれば会話の時間が激減するし、逆に定年退職で一日中家にいるようになれば、それまでの関係性では成り立たなくなる。
第三に健康である。心身の病気は、これまで通りの生活を不可能にする。第四に家族である。子どもの誕生や親の介護など、家族を取り巻く状況の変化は夫婦の形を変える。第五に住まいである。転勤による引っ越しは、環境への適応を求める。第六につながりである。友人や地域との縁が切れることで、心に隙間が生まれることもある。
変化の4つの性質
これらの環境要因は、ただ「何が」変化するかだけでなく、「どのように」変化するかも重要である。変化には4つの観点がある。
一つ目は予測可能性である。定年退職や子どもの進学は予測できるが、突然の病気やリストラは予測困難である。二つ目は持続性である。一時的な繁忙期なのか、長期的あるいは一生続く変化なのかで対応は異なる。三つ目はコントロール可能性である。引っ越しで解決できる問題もあれば、会社都合の転勤のようにコントロールできない変化もある。四つ目は方向性である。収入が増えているのか減っているのか、自由な時間が増えているのか減っているのかといった変化の向きである。
コミュニケーションを支える6つの個人要因
環境の変化を乗り越えるには、夫婦間のコミュニケーションが不可欠である。しかし、コミュニケーションとは簡単に言うが、実は複雑な要素から成り立っている。私は個人要因を6つに整理した。
第一に価値観である。節約志向の人と浪費志向の人では、そもそもの根っこが異なる。第二にコミュニケーションスタイルである。ロジカルに言語化するタイプもいれば、雰囲気で伝えるタイプもいる。
第三に読解力である。相手が何を伝えようとしているのかを理解する力である。第四に寛容さである。理解できても、それを許容できるかどうかは別問題である。第五に柔軟性である。自分のやり方に固執せず、相手に合わせることができるかどうかである。
そして第六が自己認識である。これは他の5つを覆し得る重要な要素だ。自分は冷静だと思っているが相手からは感情的に見えるといったズレ、あるいは自己評価と他者評価の乖離に気づけない人は、コミュニケーションそのものが成立しにくい。
パートナーシップの本質
環境要因の変化に対して、個人であれば自分がどう適応するかだけを考えればよい。しかしパートナーシップでは、二人でどう対応していくかを合意していかなければならない。それは言葉での合意だけでなく、双方が納得する形で変化に臨めるかどうかということである。
これら6つの要素—価値観、コミュニケーションスタイル、読解力、寛容さ、柔軟性、自己認識—のバランスが取れているとき、初めてコミュニケーション可能な他者として相手を認識できる。価値観は違ってもコミュニケーションスタイルが合い、お互いに寛容であれば関係は成立するし、逆に価値観が近くても他の要素で衝突すればうまくいかない。
コミュニケーションは確かに難しい。しかし、人は人と関わりながら生きていくしかない。相手のせいにするのではなく、自分ができることから始める。まずは現状を分析し、これらの要素がどうなっているかを知ることが、改善への第一歩となるだろう。
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